プリムのお祭り(と最近のニュース)

シャローム!
先週はプリムのお祭りがありました。
今回はその様子と、最近のニュースをまとめてお伝えいたします。
すごく長くなってしまいました。
下に目次を貼っておきますので、ご興味のあるところをお読みいただければ幸いです。
もくじ

プリム

エステル記 9章25~26節 そのことが王の耳に入ったときに、王は書簡で命じ、ハマンがユダヤ人に対して企んだ悪い計略をハマンの頭上に返し、彼とその子らを柱にかけたのであった。 こういうわけで、ユダヤ人はプルの名にちなんで、これらの日をプリムと呼んだ。

1. プリムの起源

プリムは旧約聖書エステル記の中に起源があります。
舞台は紀元前5世紀のペルシア、クセルクセス(アハシュエロス)王の時代。
エステル記は、エステルがペルシャの王妃となり、ユダヤ人を絶滅させようとするハマンの陰謀から民族を救う話です。
ペルシャ語で「くじ」を意味する「プル」にちなんでプリムと呼ばれています。
このプル、ハマンがくじを用いてユダヤ人を滅ぼそうと企んだ、と記されています。
私が世俗派の教授に聞いた話だと、ハマンは占星術をよく用いる人物であり、くじによってユダヤ人を滅ぼす日を選んだと考えられているそうです。

2. 現代の祝い方

a. 宗教的な祝い方

今回、私はエルサレムのクリスチャン交流会主催の、プリムの集いにお邪魔してきました。
ユダヤ教のお祭りでは伝統的にシナゴーグで関連するメギラ(巻物)が読まれるそうで、プリムではエステル記が朗読されます。
今回の集いでは、それに倣ってエステル記の朗読会をしました。
エステル記の朗読会の様子。参加者の母国語ー英語、ヘブライ語、デンマーク語、ドイツ語、中国語、韓国語、ヒンディー語、タガログ語、日本語ーで朗読する新鮮な体験でした。(動画の箇所は英語のみ) Clip Credit: Moses Toshimasu. (March 6, 2023)
このプリムの朗読には特徴がありまして、エステル、モルデカイの名前が喜ばれると「いえーい」、ハマンの名前が呼ばれるとブーイングするという習慣があります。
私はつい朗読に夢中で(より正確にはブーイングかいえーいか間違わないように集中していて)ついその様子をとりわすれてしまいました。
次の動画はYouTubeから拾ってきたものですが、シナゴーグでの朗読の際、「ハマン」の名前が読まれると、みんなでブーイングしています。また、仮装も印象的ですね。
Har Tzeon - Agudath Achim, “Megillat Esther - Reading of Entire Megillah (Purim 2015),”YouTube, March 5, 2015.

b. 仮装

この仮装もプリムの祝い方のひとつです。
なぜ仮装するようになったのかについては諸説あります。
ユダヤ人であることを隠して王妃になったエステルの物語を覚えるためだと説明されることもありますが、エステル記・タルムードには仮装に関する規定はありません。[]
現代のように仮装する楽しみ方は、14世紀のイタリアで始まった四旬節のカーニバルに起源があり[]、後に宗教的な方たちも仮装の意味について「神の隠れた奇跡」を表すものと解釈し、楽しんでいらっしゃるそうです。[]
上のシナゴーグの動画で、花嫁衣装の子供がいますが、これはエステルが王妃として迎えられたことを表す人気のコスプレの一つです。また、聞いた話だと、超正統派の中にもコスプレをする人がいるようで、徴兵の義務がない彼らの人気コスチュームはイスラエル軍の制服だそうです(笑)
逆にテルアビブでは、世俗派のおにいちゃんが超正統派のコスプレやイエス・キリスト、エジプトのファラオの格好をしていたので、お祭りという非日常の中で、反日常やちょっとしたタブーに触れるのは普遍的な人間の欲求なのでしょうか。
子供向けプリムイベント。何かやっているな〜と迷い込んだところ、子供向けのものだったのでこの動画をとって退散いたしました。ひげづらの独身男性がひとりで入る場所ではなかった模様です。 Clip Credit: Moses Toshimasu. March 7, 2023.

3. プリム特別集会

私の通っている教会でも、プリムの特別イベントをしていました。
普段はまじめに福音を語っている長老が米軍の格好をしていたり、舞妓さんの格好をしている女性がいたりと、面白かったです。
真ん中のサングラスとハットの方、ふたりとも長老です(笑)
Photo Credit: Moses Toshimasu. March 4, 2023.
真ん中のサングラスとハットの方、ふたりとも長老です(笑) Photo Credit: Moses Toshimasu. March 4, 2023.
ウクライナとフランスの方が日本の舞妓さんを模したコスチュームを着ていらっしゃいました。
Photo Credit: Moses Toshimasu. March 4, 2023.
ウクライナとフランスの方が日本の舞妓さんを模したコスチュームを着ていらっしゃいました。 Photo Credit: Moses Toshimasu. March 4, 2023.
 
プリム特別集会。子どもたちの歌。 Clip Credit: Moses Toshimasu. March 4, 2023.
もし教会の様子が見てみたい、という方はこちらのURLからどうぞ。教会公式のYouTube配信をご覧いただけます。

4.「ハマンの耳」―プリムのおかし

プリムでは、ハマンの耳(人によってはハマンの帽子)と呼ぶクッキーを食べます。
三角形のクッキーの中に、ジャムやハルバ(甘いごまペーストのお菓子)などが入った食べ物です。
ハマンの耳。左中央のベリーは美味しかったです。全ての味を食べたいところではありましたが、お腹(の脂)と相談して、ここは一つだけにしておきました。
Photo Credit: Moses Toshimasu. March 6, 2023.
ハマンの耳。左中央のベリーは美味しかったです。全ての味を食べたいところではありましたが、お腹(の脂)と相談して、ここは一つだけにしておきました。 Photo Credit: Moses Toshimasu. March 6, 2023.

最近のニュース

イラン・サウジ関係正常化

2年前からイラクにて進められてきた交渉は、両国による安全保障・経済に関する合意へといたりました。
当初はイラク・オマーンの仲介の元、進められてきた交渉でしたが、最後は中国の保証のもと合意に至ったようです。[]
記事作成時点で、ネタニヤフ首相からのコメントはありません。
正直私は驚いたので、背景・詳細について詳しく分かりません。以下は、私自身がニュース報道で知ったことや、UAEの政策当局者・シンクタンク職員から聞いたことです。

交渉の背景

2016年、サウジアラビアは、同国がシーア派聖職者を処刑したことに怒ったデモ隊が在テヘラン大使館を襲撃したことへの報復として、イランと断交しました。
一方、2015年以来、アメリカはオバマ政権時代のケリー国務長官の発案でイスラエルと湾岸諸国の国交正常化交渉を進めてきました。(当時のUAE側交渉担当者より。ただし非公開・録音禁止の講演会に付き、「匿名外交筋」とさせていただきます笑)2020年、トランプ政権下で結実したこの「アブラハム合意」で、バーレーン、UAEなどのアラブ諸国とイスラエルが国交を結びました。
イスラエル側の本丸は中東の大国・サウジアラビアです。同国との間でも交渉が進められており、その中でサウジアラビアはイスラエルとの国交締結の見返りに、アメリカによる安全保障保証と原子力発電開発への協力を求めていたことが報じられています。サウジは安全保障に関してアメリカ、イスラエル、カタール、ヨルダンなどを含めた中東版NATOの創設を求めています。
一方、アメリカはそのような要求に対して難色を示してきました。バイデン政権はサウジによる記者殺害をはじめサウジの人権状況を問題視してきましたが、それは本交渉において外交カードもしくは米国内向けのメッセージ以上の役割はなく、中東版NATOや民生用とはいえ核協力というサウジの要求が大きすぎて、アメリカとしても呑めないのが実情でしょう。特に、核協力はイスラエル側にとって受け入れがたい要求です。
そこで、今回のイランとの国交正常化が重要性を帯びてきます。2021年4月にイランとサウジアラビアが国交正常化に向けた交渉を持ったことが報じられているため、今回の交渉は2年近く前から行われてきました。[]サウジはアメリカの協力が当面は得られそうにないと判断し、外交交渉のカードを増やそうとして、イランとの国交正常化に動いたと考えられます。サウジアラビア外交は「伝統的に日和見主義であり、(中略)イスラエルとの協議と並行して行い、(年増注:リスクを)緩和している」のです。現実主義的な立場から評価すれば、サウジにとって、イランとの国交正常化は外交上、アメリカ・イスラエルとイランとの対立を利用することができる立場になったことを意味しており、合理的です。

合意の意味

では、今回の国交正常化がもたらす意味とはどのようなものでしょうか?まず、私を含め日本人の多くの方は驚かれたと思いますが、それほど驚くべきことではない、というのが第1のポイントです。
  • 合意の目的
    • この合意により、イラン=サウジが対イスラエル包囲網を形成した、もしくは、イスラエル=サウジの国交正常化位を阻まれたわけではありません。主要な目的は、イラン/サウジの代理戦争であるイエメン内戦の緊張緩和です。CSISの中東部門ディレクター、Jon B. Altermanは「サウジはイエメンでの紛争を集結する方法を見つけることに関心を強めており、今回の合意はそれを前進させる可能性が高い」と述べています。[] また、Atlantic Councilの上席研究員Ali Bakirは次のように述べています。「サウジアラビアとイランの関係は、その複雑な性質と安全保障上の高度な問題から、慢性的な問題がすぐに解消されるとは思わないほうがよい。」[] 結論としては、先述の通り、サウジがアメリカ・イスラエルとの外交交渉上、新たなカードを手にしたとの見方が最も妥当だと考えます。
  • 国際関係への影響
    • まず、中国が仲介役を担ったことが最も象徴的です。中国がいつから、どのような役割を果たしていたのかは不明です。(私は見つけることができませんでした。もし中国側が参加した経緯・果たした役割について報道をご存知でしたら教えていただけると嬉しいです。)
      一方、イスラエルによる対イラン包囲網の形成の目論見は、先行きがさらに不透明になりました。
       
      2016年、サウジアラビアは、同国がシーア派聖職者を処刑したことに怒ったデモ隊が在テヘラン大使館を襲撃したことへの報復として、イランと断交しました。(China brokers Iran-Saudi Arabia deten...)